スポーツマーケティングの意義
十代でのデビューから旋風を巻き起こし、スポーツビジネス市場に大きな影響を与えたプロスポーツ選手の引退会見を観ながら、つくづくご自身の持つ影響力に配慮を尽くしている様相を感じた。
文化芸術分野同様、秀でたスポーツ選手の育成や活動には多額の費用を要する。筋書きのないストーリーを描くスポーツは、人々にリアルな感動を呼び起こし、その価値で市場が形成されていくことは言うまでもないが、1970年代後半に米国の視聴型(SEEスポーツ)を発祥にしたスポーツマーケティングもSNSの台頭で変貌を遂げつつある。
実はアマチュア時代からあらゆる面で企業等のサポートを受けてきたトップアスリートでも、プロになった途端、手にするその契約の大きさや意味を理解している選手は、案外少ないように思ってきた。 片や、プロ選手に莫大な契約金を支払ったとて、今や広告宣伝が消費者の購買活動に直結する訳ではないので、スポンサードする企業の多くはあくまでブランド価値の向上という中長期のロイヤリティ醸成に活かすことを目的としている事が多い。
これだけを見れば、競技に専念するプロスポーツ選手とスポンサー企業の相性は悪くないように思えるが、あくまで選手が活躍し続けて、スポンサーの業績が順調であっての話しである。その為には、単にタニマチ的な発想に限らず、双方が戦略的パートナーとして共闘するような意識も更に必要になってくるのではないだろうか。
例えば、参加型(DOスポーツ)のイベント等にも協力的で自らSNSを有効活用できるような情報発信力の強い選手は重宝されることとなるだろう。 選手として競技の一線で活躍し続ける努力や能力と、情報発信力は必ずしも一致しないと矛盾を感じる選手も多いと思うが、コミュニケーション能力を備える事が自身のセカンドキャリアに役立つのは事実であるし、やはり競技者として一流のプロ選手には、自身の影響力への敏感さも一流であってほしい。
改めて思うが、件のプロスポーツ選手は強さと聡明さを兼ね揃えた類まれな存在である。現役を引退してもなお、その存在価値は計り知れないはずだ。
(出典)一般社団法人日本広告業協会:「JAAA REPORTS」2014年6月号より引用